『うつヌケ』を読んでみた(感想)
話題の漫画、田中圭一さん作『うつヌケ』を買いました。
めったに漫画は買わないんですけど、当事者として、みんながどうやって鬱から脱出したのかどうしても気になりました。
田中さんもうつ病の経験者だそうで、「今もトンネルの中で苦しむ人たちを 救わずにはいられない」という執筆の動機にはとても共感しました。
それで漫画家さんの立場から、いろんな人たちのうつ脱出の経緯をレポートしてくれています。
(結論を先に言うと、「読まなきゃよかったな~」です。自分は「うつヌケ」したし、興味があるから他の人のエピソードも読もう、というくらいの気軽さで読んだのですが、自分も苦しんだ体験をそんなに距離をとって読むことはできないし、「自分はここに出てくる人たちと違う…まだ元気になっていないのかも」と自信がなくなってしまいました。本が悪いわけではありません!当事者よりも、周りの元気な人に読んでもらって、うつを知ってもらうための本にするのがいいかな~と思いました。)
以下は内容と感想です。
いろいろな立場の人がうつ病になったいきさつと、どうやって脱出したかが短い漫画でまとめられていて、元気がなくても読みやすいと思います。
単純にたくさんのケースに触れるだけでも、自分が経験していることは本当に誰でもなりうる、はっきりした原因のある「病気」であって、甘えではないんだな、と思えます。
また、それぞれの人が思い思いの方法でもがいてうつから逃れようとする、その必死さがあるあるだ~と思いました。
それはアファーメーションだったり、プラモデル作りだったり、催眠術だったり、合気道だったり、ちょっと怪しくて変てこなのですが、その藁にも縋りたい必死さに、かつての自分を思い出して泣けました。
うつは本当に苦しくて、実際生きるか死ぬかなので、それを解決できるなら方法にこだわってはいられないと思います。そしてどんな突飛な方法がその人にとって役に立つか分からないのです。
ただ、渦中にある人や経験者がこれを読んでほっとするかどうかは、人それぞれだと思いました。
それは一冊には描き切れないパターンがたくさんあるからで、この作品に文句を言うわけではありません。
ひとつには、この本に収録されているのは、とても良くできたストーリーばかりで、どのケースもうつを抜ける(休養と薬以外の)きっかけがはっきりしています。
私の場合は何か劇的な和解や悟りがあったわけではなく、合う薬があって徐々に良くなったので、まだそういう悟りがないから「うつヌケ」していないのかな~と心配になってしまいました。
体験を語ってくれているのは寛解して時間がたった人が多いので、私の場合ももっと距離を置けば、あれがきっかけだったと見えてくるのかもしれないなと思いました。(紹介されていた脚本家の一色伸幸さんも、うつ病の体験を本にまとめられたのは寛解して10年後だということです。)
ふたつめは、うつを脱出する条件が「周囲から『自分が必要とされている』ことを感じる」(132) こととされているのが心配の種になりました。
この考え方は何度も繰り返し出てきます。
たしかに、自分が必要とされていると感じて、仕事などがうまくいき始めれば、精神状態はぐっと良くなると思います。
私はまだ薬やカウンセリングで状態が良くなっただけで、仕事がうまくいき始めたわけではありません。
漫画に出てくる人たちのように、別の、もっと自分に向いた環境に移れたわけでもありません。
だからまたうつになってしまうのかな~と、すごく不安になりました。
もしかしたらこの不安は正当なもので、今後のことを考え直すべきなのかもしれません。
とても優しい意図で描かれた作品で、私も応援しているのですが、うつ病の渦中にある場合、自分に非常に関係の深いトピックに触れると、それだけでナーバスになってしまうこともあるかもしれません。
安心させてくれようとするものを読んで、逆に不安の種を見つけてしまうということも、気持ちが落ち込んでいる時はあるのではないでしょうか。
あまり過剰な期待をせず、自分の体験していることを漫画のストーリーに押し込めてしまわないように注意して読むことができれば、とてもいい本です。
この本には載っていないけれど、あなたのうつ病の体験は「本当」です。
私はそこに自信が持てなくて、自分と漫画を比べてしまったのでした。
むしろ当事者の方より、ご家族や関係者の方におすすめの本ではないかと思います。
うつの辛さや、うつの時の物の考え方が分かりやすく書かれているからです。
心が元気な周りの人に読んでもらえれば、当事者の方も大いに助かるのではないでしょうか。
田中さんの、うつで今苦しんでいる人のために何かしたいという気持ちは本当によく分かります。
同じ地獄にいる人のために何かせずにはいられない。
それがその人のためになるかは、個人差があり過ぎて分からないのですが…。
でもきっとこの漫画で元気が出る人がいると思いますし、うつ病への理解も深まることと思います。
抽象的な話をするのではなくてたくさんのケースをまとめて報告する、というのは、うつ病の本として必要なことだと思いました。
田中さんがやってくださってよかったです。